所得税を計算するときに出てくる「控除」って何なの?
控除とは「差し引く」という意味です。
所得税における控除には、「所得控除」と「税額控除」の2種類がありますが、計算手順や税額に与えるインパクトはまったく異なります。
この記事では、「所得控除」と「税額控除」のしくみやその違いなどについて解説します。
所得税の控除のしくみ
所得税は、収入から経費と控除を差し引いて計算します。
経費と控除の金額が多ければ多いほど、税金を安くすることができます。
控除には大きく分けて「所得控除」と「税額控除」があります。
所得控除とは
所得控除は、所得税の計算において、ある一定の要件に当てはまる場合に収入から一定額を差し引くことができるものです。扶養家族が何人いるかなどの個人的な事情を考慮することで、税金の負担を減らす効果があります。
所得控除は、医療費控除や社会保険料控除、生命保険料控除など全部で15種類です。
税額控除とは
税額控除とは、所得控除を差し引いて税額を計算したあと、さらに税額そのものから控除できるものです。税額そのものを差し引くため、所得控除よりも節税効果が高いといえます。
税額控除には、配当控除や住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)などがあります。
所得控除と税額控除の違い
所得控除と税額控除の違いは、どの段階で控除するのかという点です。
所得控除は、収入から経費を差し引いた「所得金額」から控除します。所得金額は、税率をかける前の金額です。所得金額から所得控除を差し引いた金額を「課税所得」といいます。
一方、税額控除は、税率をかけて計算した「所得税額」から控除します。所得税の金額から直接差し引くので、所得控除よりも税額控除のほうが節税効果は高くなるというわけです。
図解すると、以下のようになります。
具体例
3パターンの具体例で、それぞれ所得税を計算してみましょう。
1. 扶養家族がいる会社員Aさんの場合
所得控除の額
基礎控除 | 48万円 |
配偶者控除 | 38万円 |
扶養控除 | 38万円 |
社会保険料控除 | 100万円 |
医療費控除 | 20万円 |
所得控除の合計 | 244万円 |
所得税の税率や控除額については、こちらの記事で詳しく解説しています。
2. 独身フリーランスのBさんの場合
所得控除の額
基礎控除 | 48万円 |
社会保険料控除 | 50万円 |
所得控除の合計 | 98万円 |
BさんはAさんと比べて控除額が少ないので、所得の額は同じ(600万円)にもかかわらず、所得税額は292,000円も多くなってしまっています。
所得の額が同じでも、控除が少ないと、税金は高くなる
3. Bさんに住宅ローンがある場合
これまで見てきたAさんとBさんの具体例はいずれも所得控除のみでした。では、Bさんが住宅ローン控除の適用を受けられる場合、Bさんの所得税の金額は最終的にいくらになるのか確認してみましょう。
住宅ローン控除は税額控除のひとつです。一定の要件を満たした場合に、住宅ローンの年末残高の1%相当額を所得税額から差し引くことができます。
Bさんの2. の前提条件に以下を追加します。
年末の住宅ローンの残高 2,000万円
住宅ローン控除の額 2,000万円 X 1% = 20万円(税額控除の額)
税額控除は税率をかけることなく所得税から直接差し引くことができるので、税金を減らす効果が大きいことが分かります。
所得控除は全部で15種類ある
所得控除は、納税者の世帯構成やその他の個人的事情などに合わせて所得税の負担を軽減するためのしくみです。全部で15種類あります。
人に関する控除(人的控除)
基礎控除
基礎控除は、納税者の合計所得金額が2,500万円以下であれば、原則として、誰でも適用される控除です。納税者本人の合計所得金額に応じて控除できる額が変わります。
合計所得金額 | 控除額 |
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
配偶者控除
年間の合計所得金額が48万円以下の配偶者がいる場合に適用される控除です。適用を受けるためにはいくつかの要件があり、また、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下である必要があります。
納税者本人の合計所得金額に応じて、控除金額が13万円〜48万円に変動します。
配偶者特別控除
年間の合計所得金額が48万超~133万円以下の配偶者がいる場合に適用される控除です。
適用を受けるためにはいくつかの要件があり、また、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下である必要があります。
配偶者の合計所得と納税者本人の合計所得金額に応じて、控除金額が1万円〜38万円に変動します。
扶養控除
扶養控除は、扶養する親族がいる場合に適用される控除です。扶養控除の対象になる親族は、その年の12月31日の時点で16歳以上の人で、控除金額は扶養親族の区分や年齢・同居の有無で変わります(最大で63万円)。
障害者控除
本人または扶養家族が障害者の場合に受けられる控除です。障害の区分に応じて、控除金額が27万円〜75万円に変動します。
寡婦控除・ひとり親控除
本人が寡婦またはひとり親に該当する場合、要件を満たせば27万円または35万円の控除を受けられます。
勤労学生控除
本人が勤労学生に該当する場合、27万円の控除を受けられます。
物などに関する控除(物的控除)
社会保険料控除
社会保険料を支払った場合に適用される控除です。
会社員は給与などから差し引かれた金額、個人事業主(フリーランス)は国民年金、国民健康保険、国民年金基金の掛金などが該当し、支払った全額を所得控除できます。納税者が生計を同じにする配偶者や親族の社会保険料も、支払った全額について所得控除が受けられます。
小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済の掛金やiDeCoの掛金は、その年に支払った全額を「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除できます。
生命保険料控除
生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に適用される控除です。控除金額は最大で12万円です。
地震保険料控除
地震保険料などを支払った場合に、最大5万円までを控除できます。
医療費控除
その年の1月1日~12月31日までの間に支払った医療費が一定額を超えた場合に適用される控除です。納税者と生計を同じにする配偶者やその他親族の医療費も合算して控除でき、別居している親族の医療費も対象になります。
寄附金控除
国、地方公共団体、公益社団法人、公益財団法人などに一定の寄付をした場合に適用される控除です。ふるさと納税も寄附金控除の1種です。
控除金額は次のいずれか低い金額から2,000円を差し引いた金額になります。
- その年に支出した特定寄附金の額の合計額
- その年の総所得金額などの40%相当額
雑損控除
災害や盗難などにより損害を受けた場合に適用される控除です。
確定申告が必要な控除
会社員であれば勤務先で年末調整をしているため、基本的には自分で控除の手続きをする必要はありません。ただし、医療費控除、寄附金控除、雑損控除は年末調整では処理できないため、これら3つの控除を受ける場合には自分で確定申告をする必要があります。
税額控除の主なもの
税額控除は多くの種類があり、適用を受けるための条件はそれぞれ異なります。主なものは以下のとおりです。
住宅ローン控除
住宅ローンでマイホームを購入して人が受けられる税額控除です。2年目以降は会社の年末調整で控除できますが、控除を受ける1年目のみ確定申告が必要です。
配当控除
国内株式等の配当等について、総合課税(=他の所得と合算して申告する)を選択して確定申告をした場合に適用される税額控除です。外国法人からの配当金は、配当控除の対象とはなりません。
外国税額控除
日本在住の人が、源泉徴収などで所得税を外国に納めた場合に受けられる税額控除です。
外国税額控除の対象となる外国所得税には以下のようなものがあります。
- 外国株式・外国ETF・外国投資信託の配当金にかかる所得税
- 海外で所有する不動産の賃貸収入にかかる所得税
- 海外で所有する不動産の売却益にかかる所得税
まとめ
所得控除と税額控除は、所得税の計算において、ある一定の要件に当てはまる場合に収入または所得税額から一定額を差し引くことができるものです。どちらも税金の負担を減らす効果があるので、控除を受けられるものは忘れずに手続きを行うようにしてください。